INTERVIEW

新しいランドセルが愛すべき存在になるために。
柴田文江さんインタビュー<後編>

新しいランドセルが愛すべき存在になるために。
柴田文江さんインタビュー<後編>

〈+CEL〉では今季より、プロダクトデザイナーの柴田文江さんが手がけた〈ARTISAN〉と〈NOBLE〉という二つのモデルが登場します。ランドセルとして違和感がないのに、まったく新しい機能と可愛さを備えたモデルは、どのように生まれたのか。柴田さんにデザインの裏側を聞きました。

――柴田さんご自身は、どんなお子さんでしたか?

柴田文江(以下、柴田) 四人兄弟の末っ子なので、親が飽きてしまっていたのか、入学式の写真もないくらい(笑)。ただ、母は織物の職人だったので、私が描いた絵を元に、胸当てのついたズボンを作ってくれました。余った生地がたくさんあったので、私もお人形の洋服を自分で作ったり、ドールハウスを作ったり。当時はクリエイティブなことはまったく評価されず、親も心配していたんじゃないかしら。でも、モノづくりが当たり前の環境で育ったことは、今に繋がっているのかもしれませんね。デザインをする時には自分の子ども時代だけでなく、いつかどこかで感じた、頭の片隅にある疑問を思い出しています。例えば、電車の中で子どもたちがランドセルを下から開けるのが大変そうだなって思ったこととか。

真ん中に座っているのが柴田さん

――電車での光景が、上から開く〈NOBLE〉に繋がっているんですね。

柴田 元々は「ライトネス」と言う考え方で作ろうと思ったんですね。かぶせがオーバーラップしていない分、軽くなるだろうと。実際、軽量なモデルになりました。上から開くカバンでありながら、ランドセルに見える丸いフォルムには職人さんの技術が込められています。せっかくのランドセルが、人とは違うと不安になってしまっては意味がないですから。軽く、ランドセルとしての違和感もない形になったと思います。機能性を追求したプロダクトは味気ないものが多いんですが、この〈NOBLE〉は背当てをチェック柄にしたり、もう一段階、積極的に魅力を増すことができたと思います。

柴田さんが描いたデザイン原画と完成したランドセルを比べると、いかに忠実に再現されているかがわかります。ただし、「すべてを図面で起こすことはできないため、職人さんからの提案がたくさん入っています」とのこと。

――通気性の良いメッシュ生地に、柴田さんオリジナル柄のチェックをプリントしています。背当てに柄を施す発想も、今までにはないものでした。

柴田 機能性も可愛さも、どちらもなければ愛着は持てません。新しさも、ランドセルの意味も、両方きちんと入れたかった。どちらのタイプも遠目に見て、「すごく変わった」とは感じないと思うんです。ですが、実際に見て触っていただければ、革の質感や柔らかさ、何度も試作を繰り返した色の良さを感じていただけるはず。職人さんのおかげもあって、使うほどに愛着を持てるランドセルができたと思います。

PROFILE

柴田文江(しばた・ふみえ)

デザインスタジオエス代表。山梨県出身。甲州織物を営む家庭に育つ。エレクトロニクス商品から家具、医療機器、ホテルのトータルディレクションなど、さまざまなデザインを手がける。エル・デコインターナショナルデザインアワード照明部門グランプリ受賞、Red Dot Award Best of the Best、iF Design Award金賞など受賞歴多数。多摩美術大学教授。著書『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』。

新しいランドセルが愛すべき存在になるために。

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