100歳の豊かさは、1日を感じることから。柚木沙弥郎さんインタビュー<前編>
100歳の豊かさは、1日を感じることから。
柚木沙弥郎さんインタビュー<前編>
ランドセルのかぶせ裏には、100歳の染色家・柚木沙弥郎さんの作品を使っています。柚木さんのアトリエに伺うと、小学生の時に見た飛行船「ツェッペリン号」を描いた作品が飾られていました。心の中に輝き続ける存在として、その景色を覚えていると言います。+CELのランドセルに使ったかぶせ裏の作品が、そういう存在になってほしいと柚木さんに伝えると、目を見開いて、「そうなるといいねえ」と頷きました。毎日使うものだからこそ、美しいものを。「80歳を越えてから、より自由になった」という大先輩は、子どもたちにどんな想いを抱いているのでしょう。このランドセルを贈る、大人たちへのメッセージもお聞きしました。
photo: Norio Kidera text: Toshiya Muraoka edit: Naoko Yoshida
――ランドセルのかぶせ裏に使った今回の作品について、教えてください。
「あかつき」と「よろこび」という題名です。「あかつき」は、のぼる太陽ですね。朝にのぼる太陽の明るさ。その勢い、喜びを子どもたちから感じて、大人たちはランドセルをプレゼントするのだと思うんです。子どもたちがキラキラしてる、まずはそれからです。親は、子どもに対する愛情、そういうものでときめくね。おじいさん、おばあさんはまた違う感情を持っているでしょう。孫にランドセルを贈ることで、そういう立場になった自信というのかな、自分たちの人生を自覚して、余裕を持つ、そこが大事。余裕ができるでしょう?すると、子どもたちに与えることができる。
――そのお話は、柚木さんが歳をとるほどに自由になっている感覚と繋がりますか?
繋がりますね。そう、いちいち確かめることはないけれど、自然と自由になっていくと思う。今日、子どもに、あるいは孫にランドセルをプレゼントしたとしたら、その目の前のものを感じるんです。遠い先のことではなくて、今を感じる。大人だって、今の自分というものを感じてワクワクする。そこが大事ですね。それは子どもと一緒ですよ。
――子どもと大人に違いはありますか?
違い、あるでしょうね、考えたことないけど大違いだよ(笑)。子どもが感じる1日と大人が過ごす1日と、ちょっと違うと思うな。でもね、毎日、感じるっていうところが大事なんだと思うんです。みんな、朝起きて、夜になったら眠るんですから。
――「あかつき」と「よろこび」は、日々を感じることを表現されているんですね。
そう、毎日を感じてほしいんです。
PROFILE
柚木沙弥郎
染色家・アーティスト。1922年、東京都生まれ。1946年、岡山県の大原美術館に勤め、柳宗悦の「民藝」に出会い芹沢銈介に師事し染色家として型染による染布、染絵など多くの作品を制作しながら、女子美術大学で教鞭をとる。染色のほか、版画、人形、絵本などさまざまな作品を制作・発表。
国内外で数多くの個展を開催。2024年逝去、101歳。