INTERVIEW

こんな変なことをしていても生きていけるんだよ。子どもたちに伝えたいこと

こんな変なことをしていても
生きていけるんだよ。
子どもたちに伝えたいこと

2022年に北海道東川へ移住した、劇団ままごとの主宰・劇作・演出家の柴幸男さんと女優・名児耶ゆりさん、小学3年生の結人くんと5歳の陽太くんの4人家族。ゆりさんと結人くんは、2024年度のカタログにも登場いただきました。普段、柴さんは東京での仕事のため毎週北海道と行き来し、ゆりさんは暮らしのほとんどを北海道で子どもたちと一緒に過ごします。出産前から演劇のほかに子ども向けのワークショップを開催していた柴さんとゆりさん。北海道との出会いも、そのワークショップで訪れたのがきっかけでした。ワークショップや北海道での暮らしを通して感じる子どもとの向き合い方や自身の変化、2人が今考えていることについて聞きました。

―― 移住して2年。結人くん、陽太くんは北海道での暮らしに馴染んでいますか?

名児耶ゆり(以下、ゆり) 2人とも自然のことにすごく詳しくなっています。当たり前のようにこの糞はウサギの糞だとか、この足跡はシカだとかキツネだとか。すぐそばに川が流れているので、みんなで春になったらそこに稚魚を放流して、また帰ってくるのを待って。あと春にはみんなで山菜を採って天ぷらにして食べたり、夏はグラウンドにテントを張ってキャンプしたり、川で魚釣りをしたり。1年中季節のイベントが盛りだくさん。肌感覚で自然を感じているというか、受け取ってそのまま飲み込んでいる感じが羨ましいなって思いながら見ています。

柴 幸男(以下、柴) 本人たちは東京に住みたいと言いますけど(笑)、自然が好きだからそれはそれでいいとも言ってますね。東京に行くと当たり前に夜でも電気が全部ついていて、駅にものすごくたくさんの人がいて。今は山の中に1軒だけ家があって暮らしてる。どっちがいいとか悪いとかはなくて、いろいろな人たちがそれぞれの暮らし方をしているんだなというのは感じているみたい。さまざまな当たり前の形があるみたいなのを知れるのはよかったかなと。

ゆり 良いところがぐんぐん伸びていっている感じがするというか。誰かと比べたりしないで自分は自分で進んでいってくれているというか。生徒数の少なさもあるけれど、「あの子は何点だった、自分は何点だった」みたいなのがないんですよね。私自身も東京にいるときは、あんまり家の中にいるとぐったりしちゃうタイプのお母さんなので、すぐ「どっか行こう」って出かけることが多かったけれど、本を読んだりお絵描きをしたりと家で過ごす時間も増えました。嫌なことや悲しいことがあっても、子どもたちと一緒に山登りに行ったり、ドライブしたりして自然に触れることですごく助けられています。

―― もともと好きだった絵本も、引っ越してからさらに増えたのだとか。

ゆり そう、絵本や児童書は好きで出産前から集めていたけれど、子どもが生まれてからは堂々と手に取れるからさらに増えて。引っ越して部屋が広くなったからさらに(笑)。でも、先日絵本はやっぱり子どもと一緒に読んで完成するものなんだなっていうのを実感したときがあって、そこからさらにおもしろくなっています。

―― どんな風に?

ゆり たかどのほうこさん作の『まあちゃんのまほう』を読んで、子どもと一緒に楽しめたっていう感覚がすごくあったんです。私も読んでびっくりしたし、子どもたちも読んでびっくりして。たぬきが化けたお母さんと子どもが一緒に遊ぶお話なんです。いつも怒りんぼのお母さんなんだけど、たぬきが化けたもう一人のお母さんは「一緒に遊ぼうよ」って、自転車に2人乗りしたり、つまみ食いしたり。「2人乗りはいけないんだと思ってた!」ってまあちゃんが言ったら、たぬきのお母さんは「そんなこと言ったって面白いもん!」って。子どもたちと大笑いしながら読んだんです。結局は本当のお母さんに叱られてしまうんだけど(笑)。たぬきが化けたお母さんを見て、「ああ、こんなお母さんでもいいんだ」って、なんだか肩の荷が下りたというか。

―― 2人はもともと、子ども向けワークショップの開催で北海道を訪れていたのですよね。

 そう、何度か北海道で子ども向けのワークショップを開催していました。特に過疎の地域に行くと子どもたちの変化がおもしろいんですよ。そういう地域の学校では1年生から6年生までずっと同じっていうことがあるんです。そうすると、みんなのキャラがわかりきっちゃってて、キャラ変する機会がない。でも台本があって普段と全然違う役割が与えられると、普段リーダーシップをとらなかった子が、急にリーダーシップをとって前のめりに作るようになるとかね。演劇を通していつもの関係性が変わることもあって、すごく興味深いですよね。

―― そんなに変わるなんておもしろいですね。昨年は2人で演劇の公演も。

ゆり そういう予定はなかったんだけど、演劇を観たことがないっていう人たちが多いことに驚いて、せっかくならみんなに演劇を体験してもらいたいという気持ちと、自分たちの自己紹介の意味も込めて公演をしました。その後1時間の演劇ワークショップを。その時のワークショップは柴さんが担当してくれて。

 普段やっている演劇の手前の遊びから、だんだんみんなが自分の体を使って何をするかを考えて表現してセリフがあるというか喋る演劇に近づいていくみたいなワークショップ。別に演劇を作る人にならなくてもいいので、なんとなく体験で遊んでみて演劇の観方だったり作り方だったり遊び方だったりをちょっと体感してもらって、普段自分が使ってないようなコミュニケーションをしてもらえたらと。

ゆり 先日は私が子どもと演劇を作ることになって、どういう話にするかというところからみんなで話したんです。台本会議のときみんなもうやりたいことが溢れ出ちゃって、立ち上がって声が枯れるほど「じゃあさ、この人がこうで、こうで!」って、私も「わかる、わかる!そうなるよね!」とかって言いながらホワイトボードに殴り書きして。てんやわんややりながら2回の稽古でなんとか本番が迎えられました。終わった後「私、演劇を作るほうが楽しかった」「私は、出るほうが楽しかった」とか、「僕は両方楽しかった」「次は作るほうだけやりたい」とか。自分たちで発見して、その感覚まで掴めたのはすごいなって。観るだけじゃなくて、作るところを一緒に共有できたのは良かったです。

―― 演劇やワークショップで子どもたちに伝えたいことは?

ゆり こんな変なことをしていても生きていけるんだよ(笑)、会社に勤めるでもなくお店をやるでもなく、こんな仕事もあるんだよっていうことを伝えられたらいいなと思っています。何でもできるよっていう気持ちを後押ししたいと思っています。

―― 移住やワークショップなどを通して、子どもとの向き合い方や子育てにも変化が?

ゆり 良い変化が多いけれど、結人が小学校に入学当初一度壁にぶち当たったことがあって。それは家族のこれまでで一番大きな壁だったんだけど、時間はかかったけど乗り越えられたことは、家族にとって大きな転機でした。以前から「お父さんとかお母さんは結人と陽太が嬉しい時とか楽しい時とかに一緒にいられるのがすごく幸せだけど、でも一番幸せなのは2人が悲しかったり元気がなかったりする時に一緒にいられることだから、必ずそういう時には2人のことを元気にするから教えてね」って伝えていたんですが、今回その言葉をかけてきてよかったなって思いました。これから先もその言葉を子どもたちにかけていきたいと思っています。

 あとは、こっちで出会ったお父さんお母さんたちの立ち振る舞いはとても参考になっています。やっぱり待つ時間が長い。すぐ何かを注意したり否定したりしないで見守る時間が長いんです。以前なら、車が近くに来るとか他の人がいるとか、レジに並んで後ろの人が待つみたいな状況で、すぐに子どもたちを動かしていたところがあったけど、こんなに待っていいんだなって。ずっと見ていて後から言うとかでもいいんだなって。周りのお父さんお母さんたちを見ていると、自分もそういうふうになりたいなと思うようになりました。だんだんそうなってきたかなという気もしています。

ゆり この土地に来てよかったことは、私自身好きなことがすごく増えたこと。やっぱり、好きなことがあればあるほど、楽しい人生になるんじゃないかなって思うんです。だから、子どもたちには好きなことをたくさん増やしてほしい。最近はそんなふうに思っています。